腹の中でひとが生きてるコト

私の腹の中には小さな人間が生活している。一緒に生活し始めてから35週経過した。私の意志とは関係なく、中の人は寝たり起きたりを繰り返している。食事は私が採ったものからおすそわけ。何がすきなのかはよくわからない。話しかけると中の人は聞いているのか腹の中でモゴモゴと動き、腹はおおきく波を打つ。たまに動きすぎて痛い。「おーい。痛い」と言うと、動きが一瞬ピタと止まることがある。かまわず動き続け私を唸らせることもある。あと一ヶ月ほどで腹の中の人は、私と同じ、外の空気を吸うようになる。外の空気を吸ってから、この人は外の世界を少しずつ少しずつ、まっさらな脳に焼き付けていく。外の世界を知るごとに、私の腹の中で過ごした日々は忘れてしまうのだろう。
場所を提供している私にとっては、後日、アカンボに腹の中の生活はどんなもんだったのか聞いてみたい。腹の中の肌触りというのはどんなもんなんだろうか。辛いものを食べたらやっぱり辛い成分が中の人にも届いているのだろうか。セックスをしたときは中の人にも何かが伝わっているのだろうか。心の声は中の人にも聞こえているのだろうか。一番居心地がいいと感じるのはどんな時なんだろうか。
色々と思い浮かべるけれども、私だって中の人が外の人になった瞬間から、自分がそんな疑問を抱いていたことも忘れて育児に励むのだろー。
ふしぎふしぎ こんなにふしぎなことが当然のように昔から続いているのがふしぎ